コーヒー

伊織弓鶴ー好きな飲み物はカルピス
琴葉茜ー好きな飲み物はビール
(出ない人 琴葉葵ー好きな飲み物はよく知らないブランドの、変なエナジードリンク)

 レポートのための参考文献って弓鶴くんの家にあったよねという一言からやって来た彼女頑張って文字数を稼げたところで休憩となった。
 そんな時、キッチンに手お茶の準備をしている所をみながら呟かれた「なんか、意外」という従姉妹の言葉。少しの間なんと答えていいのかわからなかった。

「そんな意外?」

 何故なのかはわからないが意外と言われたのが恥ずかしくなって誤魔化すようにそう言うと茜ちゃんは言葉に詰まった。

「あー、いや、意外っていうかなんて言えばええんやろか………」

 言葉に詰まる彼女にもしかしてあれだろうかと手にとって見せる。

「……弓鶴くんカフェインダメなのになんで家にコーヒーあるの?」

 一杯抽出型のコーヒーの袋。
 それを見て茜ちゃんはわざとらしく指を慣らす。

「そう! それ! なんであんの?」
「貰い物。というか、別に俺はカフェインがダメなわけじゃないよ」
「え? そうなん?」
「そうそう」

 心配性な母がそういえばコーヒーや紅茶などの選択肢がある時によくうちの弓鶴はカフェインがダメな体質で〜といってた気がする。
 実際ところのは微妙に違うのだが。

「昔カフェイン中毒だったからカフェインやめたの。それで、なるだけ飲まないようにしてるだけ」

 父親がコーヒーが好きで、俺も–ミルクや砂糖を入れた上でなのだが–当然のように小学生くらいから飲んでいた。
 中学生になったらあの不思議な味と、ブースト状態にはまってエナジードリンクが好物になって、夜にはコーヒーを眠気覚ましに使い勉強をしていた。
 そのせいで高校生になった頃には立派なカフェイン中毒患者の出来上がりである。

「はー、初めて知ったわ」
「まぁ、いう機会ないしね」
「ふーん。飲むん?」
「貰い物だからねぇ。茜ちゃんもいる?」
「いや、ええわ」
「そう?」

 まぁ、コーヒーは茜ちゃんは飲まないだろう。飲むにしたってコーヒー牛乳くらいに決まっている。
 慣れた手つきでお湯を入れると茜ちゃんがしんぱいそうな声を出す。

「その、大丈夫なん?」
「ん? あぁ。カフェイン中毒、あんまりピンときてない?」
「うん」

 素直に帰ってきた返事にどういうモノだったかを思い出す。
 正直カフェイン中毒について調べたのは随分前のことなので割と曖昧だ。

「えっと、まぁ、カフェインをとりすぎるとなるものなんだけど、重度だと錯乱とかあるらしいんだよね」
「え!?」
「でも俺は頭痛とか、不眠が顕著現れるだけだよ」

 だから大丈夫と続けるつもりだったが茜ちゃんが先ほどよりも心配そうな声を出す。

「いやいやいや……ほんま大丈夫?」
「うん。昔はエナジードリンクとかジュース代わりに飲んでたから……最近はノンカフェインの紅茶とか、そういうのに変えてるし。というか、日頃からコーヒー飲んだり紅茶飲んでるだけでもカフェイン中毒にはなるよ」
「え? そうなん」
「うん。俺なんかよりカフェイン中毒のことあんまり知らなそうで、エナジードリンクガバガバ飲む葵ちゃんに注意したほうがいいかもね」
「はえー……今度言っとくわ」
「うん。そうしてあげて。俺から葵ちゃんに連絡すると口うるさいお母さん見たいでなんか妙にムカつきますって返事くるからさ」
「あはは。たしかに時々お母さんみたいやんな」
「そう?」
「うん。あ、でもほんまに時々やで。普段はお兄ちゃんって感じやな。葵ちゃんは、たまにしか連絡しない上に、どうせならって弓鶴くんよく小言言ってるから余計そう思うんとちゃう?」
「まじかぁ……気をつけよ……」
「あ、でも葵ちゃんも別に弓鶴くんが嫌いってわけやないで?」
「知ってるよ」
「そか、そうやんな」
「っと、できた」
「いい匂いやなぁ……」
「わかる……あ〜、飲み終わったらコーヒー買いに行こうかな……」
「おい!」
「ちゃんとノンカフェインのにするよ。デカフェのとか。味は……まぁ、そんなにしっかり
味わったことないけど、嫌いじゃないし」
「そうなん?」
「まぁ、でも眠気覚ましが飲む理由だったしなぁ」

 そう言いながら出来立てのコーヒーを飲む。あぁ、なんともいえない味がする。この、苦いのか、酸っぱいのか、なんかよくわからない深みのある味。
 いやそれ以上に心臓だ。痛みというわけではないのだが、無理やり心臓マッサージをされたような不思議な感覚だ。

「きくなぁ……」

 一番適当な表現だと思った。
 くるなぁでも適切な気がする。

「うわぁ……」

 横の従姉妹はすごい顔をしながらこちらを眺めている。
 随分昔に葵ちゃんにもこんな顔をされたな。

「なんでそんなしみじみと引いてるのさ」
「いや、本当になんか、味ではないんやなぁと……」
「味じゃないねぇ……」

 そんなことを話していると急に。

「あ、まって」
「ん?」
「あ〜久々にこの感覚が……」

 心臓がバクバクと、うるさい。
 目が覚めるというか、かっぴらいた感覚。
 久しぶり過ぎて、気持ちが悪い。

「え、なになに」

 焦ってる茜ちゃんを落ち着かせないとと思うが、体はうまく動かない。
「ちょっと、待ってね………きまりすぎてる……」
「え!? なに!? 救急車呼ぶ!?」

 焦った茜ちゃんとは対照的に頭は落ち着いていて、こんな姿初めてみたななんて考えてしまっている。

「いや、それは大丈夫……ちょっと、頭痛いし、心臓が……あー、でも目が冴えてる。すげぇ……」
「なに!? え、ほんまなに? え、な、なんか、なんか、薬とかいる……?」
「ううん。大丈夫」
「というかそんなちょっとでそんな体調悪くなるってやっぱりカフェインだめなんやんか……」

 泣きそうな声に、流石に罪悪感が湧く。反省。

「だねぇ……昔はこれをブースト状態だと勘違いしてただけみたい」

 そういうと、茜ちゃんは心配よりも呆れが上回ったらしい。
 すごい顔をしている。

「やばぁ……引くわ、ほんま」
「あはは……今日もう寝れなさそうだし、なんか茜ちゃん課題手伝おうか?」
「いやいや……体調悪い人に手伝ってもらうほどではないので……」
「なんか心の距離を感じるなぁ」
「距離取ってるもん」

 変なテンションになりながら頑張って名誉挽回をしようとするが空回りだ。

「はぁ……もー、今度からはしっかり断って、ほんまカフェイン取らずに大人しくしときや」
「は〜い」

 優しくしてくれる茜ちゃんがなんか嬉しくて素直な返事をすると、ぺちっと小さく立てた膝を叩かれる。
 彼女の怒りとか、そういうのを素直に受け入れるかと思っていると茜ちゃんはゴソゴソとパソコンを片付けようとしている。

「葵にもちゃんと言っとこ……」
「今日はもう帰る?」
「うちおらんほうがええやろ?」
「いや、そんなことはないけど」

 むしろ、どちらかというといて欲しい。
 痛み始めた頭を抑えるようにしながら返事をする。

「そう? なら適当に邪魔ならんようにするから課題やっといてええ?」
「うん。いいよ。俺はちょっと、静かにしとくから」
「は〜い」

 立ち上がって、音を立ててベッドの上に寝転ぶ。

「ほんま、きぃつけや」

 呆れと、怒りが含まれた声。

「うん」

 彼女にこうやって怒られるなんて思ってもなかったので、なんだか少しだけ嬉しくて、でもそれをいうと怒るだろうという確信があったので黙ってニヤニヤしながら、本のめくる音やキーの音に耳をそば立てて、そのうち目を瞑った。

2022年02月27日公開
2022年12月08日更新