弦巻マキと紲星あかり、パン
一時間で書き切るものだったので誤字脱字、誤変換、変なところも残したままです
赤い屋根の、小洒落たパン屋が近所にある。開けるとカランコロンと懐かしい雰囲気のドアベルが鳴り、いらっしゃいませと凜とした声が聞こえるのだ。
地域密着……というよりはお洒落な雰囲気の、インスタとかに載ってるような。価格設定もほんの少し高くて、お小遣いから工面して、月に一度ご褒美に買うのが習慣になっていた。
私が買うのはもっぱら期間限定の甘めのパンと、塩パン。それと気になったパンの三つだ。
今日はその月に一度のご褒美の日。
少しおしゃれをして、財布にしっかりお金を入れることを確認していざ入店。
カランコロンとドアベルが鳴ると共にいらっしゃいませと声が聞こえ、いい匂いが体いっぱいに入ってくる。
それだけでもう幸せな気持ちになった。
入り口近くのトングとトレーを両手に構え、ついつい癖でトングをカチカチと鳴らしてしまう。
パンに威嚇しても何の意味もないのに、ついやってしまうのだからしょうのない話だ。
まず入ってすぐ手前にある塩パンを取り、期間限定のパンを通路を歩きながら探す。
これはデニッシュ、これは、アンパン、クイニーアマンかぁ、いいな。そんな風に眺めているとカランコロンと誰かの入店を告げるベルが鳴って、店員さんの声が響く。
別に何があるというわけではないのだが気になってついついそちらを見ると、見慣れた人がいた。
「あれ? あかりじゃん」
「あら、マキさん」
まず思ったのは彼女もこの店を使うのか……ということではなく、少し気まずいということだった。
弦巻マキさん、通常マキさんで従姉妹のゆかりさんや友達の琴葉姉妹のお友達。つまりは友達の友達で、そのグループに混ざる時に一緒にいるというだけの存在で、2人で遊ぶようなことはないし、LINEだって最初に交換したっきりの、なんとも説明し難い関係性の人だった。
悪い人ではないことは知ってた。というか、いい人だ。
それでもどうしても2人っきりでいるのは、少し、気まずく、人見知りが発生してしまう。
今すぐパンを買って帰りたいが、それも失礼な気もする。
あわあわと考える私をよそにマキさんは近づいてくる。
「あかりもこの店使うんだね」
「あ、はい」
なんだか、何かしてないと落ち着かなくてさっき気になってたクイニーアマンをトレーに載せる。
そしてキョロキョロと見渡し、期間限定のポップアップを見つけ、マキさんに断りを入れてそっちへと向かう。
期間限定はどうやらチョコレートのデニッシュらしい。
あぁ、バレンタインがあったなと考え、取る。
「あ、いいなー。私もそれ食べよっ」
すると隣でマキさんが同じようにチョコレートデニッシュを取った。
「ここの期間限定って美味しいからついつい食べちゃうんだよねー」
なんと。
「わ、わかります」
「あかりもなんだ。一緒だね」
なんだかその言葉に嬉しくなる。共通点が今までゆかりさんと琴葉姉妹しかなかった所に、急にこの店の季節限定が増えたのだ。話しやすくなってしまう。
「1月のもよかったですよね」
「うん。まさかの餅入りなんだもんね」
そんな話をしながらレジへと並ぶ。
マキさんは冷蔵コーナーから何かを取り、私の後ろに。
150円、230円、200円。そして消費税。
ピッタリ出してレシートを受け取り、なんとなくマキさんの買い物が終わるのを待つ。
「……あかりってこのあと用事ある?」
袋詰めをしている店員さんを見ながらそんなことを言われ、少し悩む。
「えーっと」
無いが、やはりついさっき話題を見つけただけで会話のデッキとしては正直なところ弱い。一時間ギリギリ話せるくらいの内容だ。
会話が途切れると考えると少し恐ろしい。
「あっ、別にあるならいいんだ。またね」
私の気まずさを感じ取ったのか、レシートとお釣りを受け取りながらそういう先輩にあわてて答える。
「あ、ちょっ、無いです! 用事!」
これをきっかけに仲良くできるならしたい。
「そう? ならちょっと歩かない?」
そう言いながら先輩は笑った。
*
歩いて大体10分。
歩いて、坂を登り、また歩いて、歩いて。
「とーちゃく」
そこは、近所……というには少し遠い堤防だ。
ここに来たのは小学生以来な気がする。犬の散歩をしてる人、トランペットみたいなものを演奏してる人。走る小学生。そして階段に座る私たち。
なんだか、心が落ち着く。
「いいでしょ、ここ」
「はい」
どちらがいうわけでもなく袋からパンを取り出す。
私は塩パン。マキさんは多分カスクートとかだろうか。
「いただきます」
「いっただきまーす」
風を感じながら食べるパンは幸せで、これもこれでいいなと少し思う。
そうだな、春と、秋はいいかもしれない。
そうぱやぱやと考えて袋にゴミを入れ新しいパンを取り出す。
「デニッシュ、いいですねぇ」
「ほんとほんと、意外と苦目のチョコだね」
「ですね。すごい滑らかなチョコ……」
「あは、あかりは幸せそうに食べるねぇ」
「実際幸せですから」
そんな緩い会話をしているうちにペロリとお腹に入り、三つ目のクイニーアマンを食べ始める。
と、不意に強い風がついて、まず髪の毛を押さえた。
そして、目の端で白いものが舞い上がったところが見えあっと、声が出た。
そんな声を出してる間に脇に置いてたはずの袋は遠くへと運ばれており、クイニーアマンをマキさんに持ってもらいのそのそと立ち上がって追いかけ、強制的な食後の運動に脇腹を痛めながら思う。
戻ったら重石を入れとこう。
あるいはさっさとしまっとこう。
屈んで、クシャっとしっかりと袋をつかんで、少し息を切らしながらマキさんのところへと戻る。
片手にクイニーアマン。もう片手にはペットボトルのお水があった。
「お疲れ様」
そう笑いながら、お水を差し出してくれてこちらも笑って返す。
「ありがとうございます」
少なくとも、私は今後マキさんと2人っきりでと気まずく思うことはないだろうななんて考えながら、一口飲んだ。
2022年02月12日
2022年12月29日