良いお年をなんて言わないけれど

2023年の年末に公開した話です

 年末が近づくにつれて、どこでもそうなのだろうが飲みの集まりが増え出す。
それは今年もいい一年でしたねと締めくるる為だったり、それを理由に集まって騒ぐためのものだったり、まぁなんにしたって人は理由をつけてお酒を飲みたがるものだ。
昔はそれも良かったが、今では大半の人には気を使われるばかりでむしろ気を使う。
かと言って参加をしないという選択肢を選ぶこともできず、難しい。
今もそうだ。
出演している番組の今年最後の生放送が終了し、開かれた忘年会。
気を遣って何飲みますか? とわざわざ聞いてくる後輩、もっと飲みなよと勧めてくるプロデューサー。あいた皿を下げたそうにしている店員。
飲みの集まりが嫌なわけではない。が、どうしてもこういう集まりが集中して行われるため、話したいことも徐々に尽きてくる。
今の時間を見るとそろそろ解散も近い。

「そろそろ立ちますか」

そういうと誰かがそれをいうのを待っていたとでもいうように続々とそうですねという声が上がり、幹事が挨拶をして立ちたがりだす。

「それじゃあ良いお年を」
「えぇ、良いお年を」

数日もしたら新年がやってきてまた会う人たちと、形式だけの挨拶を行う。
毎年むず痒い。
体がほろ酔いでふわふわしている中で、寒い風が心地よい。
大通りには遅い時間でも人が溢れてて、ざわざわと騒がしい。
ふと、深緑のコートを着た人が目についた。
キラキラしたショーウィンドウの前で、暖かそうなふわふわのネックウォーマーをつけてて目だけが見える。緑の目だ。

「こんばんは、セイカさん」
「やぁ、壮一くん」

まるで私がここを通ることをわかっていたみたいにすんなりと挨拶を受け入れた彼女に疑問を抱くことは無くなった。

「何を見ていたんですか?」
「いや、来年は辰年だったのかと思ってさ」

そう言って指差した先には大きな龍の飾りとすっかり新年という様な飾り付けがされている。少し前まではクリスマスの靴下やら、ツリーやオーナメントで輝いていたというのに早い話だ。

「干支ってこの時期しか意識しないよね」
「あとは……年齢の話とかの時にたまにですかね」

それ以外で、例えば夏にそうか今年は辰年だったと意識することはないだろう。

「君は戌って感じがするね」

なんでもなさそうに彼女はいうが一瞬意味が分からず考える。

「干支ですか?」
「うん」

当たっていたらしい。

「残念ながらはずれです」
「あら、残念」

そう言って彼女はくすくすと笑う。
自分が戌っぽいかはさておき、同じく生まれで決まる星座よりは性格などに結びつきにくいものを似合うと言われてもあまりピンとこない。

「もし干支が選べるなら辰は人気そうだよね」
「あぁ、確かに」

唯一の幻想生物だからだろうか。やはり他の干支とは何か違う気がする。

「酉と亥はあんまり人気なさそうだよね」
「うーん、どちらも意味を持たせたら人気が出そうな気がします」
「例えば?」
「さらなる飛翔がある酉年とか、猪突猛進に物事を進む亥年とか」
「はは、いいね」

どの干支にもそれなりに適当な意味をつけられそうだが、酉年と辰年なら意味が被りそうな気もするし難しい。

「あぁ、もうお店閉めるみたい」

そういった彼女の声に釣られてみるとシャッターが自動で降り始める。
時間も時間だから仕方ないだろう。

「今日の壮一くんはいつもより饒舌だったね」
「……少し酔ってますので」
「ほどほどにしなよ」
「えぇ、わかってます」

この歳になるとなかなか言われることがない、いやむしろ言われることは増えてきたのだがニュアンスの違う、年長者からの忠告じみた言い方が少しむず痒い。

「そろそろ私は行くよ」
「せっかくだから食事でも……と言いたいですがもう営業しているお店は少ないでしょうね」
「時期も時間も悪かったね」

残念と、さして残念でもなさそうに彼女は呟く。

「じゃあ、またね」

そういって軽く手を振る彼女の普段通りの、何一つ変わらない挨拶は逆になんだか良かった

「ええ、また」

彼女はまた気まぐれに会いに来るのだろう。なんでもない話題を手に、ほんのちょっとの時間だけ。
さよならといわれる日までは、またそんな日が来るのだ。

2025年10月30日公開