水奈瀬コウ-ことわざを織り交ぜたトークが評判。 東北きりたん-恥をかきたくない。
五年生の時、担任となった水奈瀬先生の授業は普通で可もなく不可もなくといった感じだった。わかりやすいが面白くはない。優しい先生ではあったが、悪戯やいじりには少し厳しい先生。そんな、よくいるような先生だった。
強いて他の先生と違うところを挙げるならば時折混ざることわざだ。青は藍よりいでて、藍より青し、とか一葉落ちて天下の秋を知る、とか。正直言って意味がわからないものの方が多く、他の子が率先して聞いていた。それなんですか、と。そうするとこれはこういう意味です、と言ったあと。聞くはいっときの恥、聞かぬは一生の恥です。よく聞きましたね、と一言付け加えるのだ。
私はたとえいっときであっても、恥なんてかきたくなかった。だから、手をあげてわざわざことわざを聞くようなことはしない。だって、他の子がやってくれるし、聞かなくなって問題ないし、そんな風に思っていた気がする。
そのことわざの時もそうだった。プールの後の道徳の授業だった気がする。うとうとと、眠気と戦った記憶があるから。
正直内容は何も覚えていない。
たしか、命長けりゃ恥多し。だったか。そんなことを言った。これは、流石に聞かなくても意味がわかった。そのまんまだなと思った。だから、なんか、逆に面白かった。そのあと、先生は珍しく自分の話をした。
「先生もこの歳になるまでいろんな恥をかいてきました。きっと、君たちも恥をかいていくでしょう。でも、大丈夫です。あなたより大人の方が恥を沢山かいてるに違いありません。みんな恥をかくんです。気にすることなんかありません」
とかなんとか。
なんだか私はその言葉に安心した。
恥をかくのか。みんな。
そうか。そうだったのか。そう思って、私は眠った。
*
次の日、先生は例にもよってことわざを交えた授業をした。思い立ったが吉日であるという話です。と先生が言った時私ははいっと、手をあげた。
「きりたん? どうしたのかな」
「どういう意味ですか」
「やるべきことはすぐにやれ、という意味ですね。今やるべきだと思ったなら、そうしようという。わかったかな」
「はい、わかりました」
「ん、聞くはいっときの恥ですが、聞かぬは一生の恥です。いつでも聞いてくださいね」
そう言って授業はまた再開した。
私は恥をかいた。だが、これからも恥をかいていくのだ。
バクバクする心臓を抑えて、ノートを改めて取る。
聞いてよかった。
心底そう思った。
あぁ、そうか、これが思い立ったが吉日か。
2021年10月04日公開
2022年12月01日更新