自殺防止灯

そこに、確かにいた(別名2021年まとめ)収録


 ふと、家庭訪問から帰る途中に青い光を見た。近寄ってみるとそこには踏切があって、青い光に照らされて、電車が通ると踏切は赤く光るけどやはり灯りは青いままで、ひどく不気味だった。
 なぜこんなところにきたのだろう。早く帰らねばと思ったのに、どうにも踏切の前から離れることができない。
 不思議に思いながらただぼーっと眺めている。
 そのうちカンカンと警報が鳴り出した。踏切が下がって行くのを見ながら徐々に足が前へ向かう。
 近づいてどうするのだろう。わからない。帰り道はこっちではない。それはわかってる。
 そうでも足が止まらない。
 電車はそろそろくるようで、目の端に光が見えた。

「先生」

 ふと、凛とした声が後ろから聞こえ、足が止まる。

「あ……え? あっ、東北イタコさん」

 振り返ると、先ほどの訪問先、東北きりたんの姉のイタコさんがそこにいた。

「こんなところで、何を? 学校は真逆ですわよ?」

 背中から電車の通り過ぎる音、踏切の警告音が混ざって気持ち悪くなる。

「いや、その、僕もよくわかってなくて……すみません、なんか」

 歯切れの悪い返事。でも本当に自分でもよくわかっていない。
 だから、何もいえない。
 赤い光と、青い光と、電車の灯りで頭が混乱した。
 なんなのだろう、頭が痛い。

「ここは、迷いやすいですからね。大通りまで案内しますわ」

 彼女の言葉に断ろうかと思ったが、それはダメだとなんだか本能的に思う。
 ダメだ。ここにいちゃダメだ。

「……おねがい、します」
「ええ、こちらです」

 そう言って彼女は踵を返して歩き出す。
 自分もそこについていく。
 ふと、背中から未だに踏切の警告音や電車の音が聞こえること、未だに踏切の赤色や、青色、白色が光っていることに気づいた。
 きっと、反対側の電車も通ってるだけだと思い込むことにした。
 そう思わないと、飲み込まれる気がした。

「先生、ほら、もうちょっとですわよ」

 彼女の言葉に、頭を働かせずに歩く。歩く。歩く。
 そのうち音も、光もどちらも無くなった頃に大通の光が見えた。

「さぁ、ここからなら帰れますわね?」
「えぇ、その、ありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらず」

 頭を下げていると頭上から、声が聞こえた。

「にしても、先生はやはり教師なんですのね」
「え?」
「子供に好かれやすいみたいですけど……優しさは時に残酷ですわよ」
「何を、いってるんですか……?」
「いえ、この先も生きていたいなら、その優しさは生者に使いなさいと、そう言ってるだけですわ」

 そう言って彼女の口は弧を描いた。
2022年01月15日公開
2023年01月12日更新