霧とともに

アリアルと小春立花、霧
一時間で書き切るものだったので誤字脱字、誤変換、変なところも残したままです

 霧というものが苦手だった。
 ミストという映画を知り合いに騙されてみたせいだろうか、ホラーの演出で使われる事が多いからだろうか。それとも単に不安になるからだろうか。
 わからないが、とにかく霧は苦手で、少し怖いものだった。
 祖母の住む家は山のほうにあり、朝方霧が出る事が多く、それが嫌で祖母の家に行くことはなるだけ控えていた。祖母は好きだ。会いに来る分には何も気にしない。でも家に行くのは苦手だった。
 それでも法事というなら仕方がないのだ。
 わいわいがやがやと大人たちが話してる中、何もする事がなくスマホをいじっていた。
 親はそんな私を嗜めるが無視をして、早めに眠った。
 そのせいだろう。朝早くに起きてしまった。
 ご飯の準備をする祖母は私をみておはようと言った後、暇なら犬の散歩に行ってくれと頼んできた。
 寝ぼけていた私は、何も気にせずいいよと了承をして、適当に着替えもせずに上着だけ羽織って、外に出た瞬間、固まる。
 前後不覚になりそうとは言わないが、霧で前がよく見えない。
 うげーっと変な声が出そうになった。
 やっぱ断ろうかなとか思った矢先に祖母は鈴を持ってやってきた。

「六花、熊鈴忘れたらあかんよ」

 断ることはできなさそうで、散歩用の袋につけて散歩へと向かった。

 

 幼少期はこの山道を何度も歩いていたからだろう。
 道自体は何も問題なく把握ができた。
 ただ、時々聞こえる音が怖かった。
 例えば何かが枝を踏んだパキッという音。鳥の羽ばたく音。風が何かで木々が揺れている音。
 どこから聞こえてくるのかも、よくわからない。
 それでも気にしないふりをした。
 犬のハッハッと短い息の音や、熊鈴を聞いて聞こえないふりをした。
 ふと、犬が立ち止まった。
 混乱する私を他所に犬は耳を立てていた。
 一番最初に思いついたのは、熊だった。本物の熊はラキストンみたいには可愛くないことを知ってる。
 どうしたらいいのかわからなくて周りを見る。
 何もない。
 いや、いた。
 人がいた。正面から、人が来ていた。
 長い白髪は下にいくにつれて黒くなっていて、服はモノクロで、SFみたいな雰囲気があった。
 無表情の、端正な顔の人だった。
 まず、田舎に似つかわしくないと思った。
 そして、この人熊鈴もラジオも、話すことだって忘れてると思った。
 もしかして都会からの旅行者とかなのだろうか。
 あわあわする私を他所に彼女は軽く会釈をして去ろうとする。

「あっ、ま、まって!」

 なんで声をかけたのかはよくわからない。

「熊鈴、忘れた、の? ですか?」

 真っ赤ななる私とは逆に彼女は少し思案した後にあぁと声を出した。

「見えてるんだ?」
「……えっ?」

 不思議な言葉に何を言ってるのだろうかと考えるが彼女は少し笑う。

「ううん。なくてもなんの問題もないから、つけてないだけだよ」
「そ、そう、ですか?」

 なんの説明にもなってない説明に混乱してしまう。

「……心配ならついてくるかい?」

 その言葉に少し悩む。
 この人を放置してもしも何かあったら程々に私は後悔するだろう。
 でも、見知らぬ不思議な人について言っていいのかはよくわからない。
 悩む私をみて彼女は声たてて笑った。

「いやいや、ごめんよ。面白かったから、つい、ね?」

 からかわれたのだと気づいて恥ずかしくなったが少し癪に触った。

「……じゃ、あ……ついていきます」

 なのであえてさっきのからかいに乗ってみたのだが彼女は狼狽えることもなくただ笑う。

「いいよ、いこっか」

 そう言って彼女は私が来た道を引き返す。
 少し待っていたら彼女の姿が見えなくなりそうで少し駆け足で歩き出した。
 犬が、少しだけ不安そうに小さく鳴いた気がした。

 

 二人であるていても、別に何があるというわけではない。
 無言でただただ歩く。
 それが少し気まずかった。

「……な、名前はなんていうんですか?」

 無理やり話題を作ってみる。

「アリアル」

 アリアル。不思議な名前だ。もしかしてまたからかわれているのだろうか。

「あなたは?」
「えっと、六花。小春六花です」
「リッカかぁ」
「……うん」
「いい名前だね」
「あ、ありがとうございます」

 そうしてまた無言が訪れた。
 どうしようか悩んだが、無理に話すのも良くないのだろうかと悩む。

「リッカは」

 アリアルさんから話しかけてきた。

「ここら辺に住んでるの?」
「あ、いや。小樽の方に、ここはおばあちゃんちがあるの」
「ふーん」

 聞いておきながらアリアルさんは興味なさそうだった。

「その、アリアルさんは、どこらへんに住んでるの?」
「さぁ?」

 その回答にずっこけそうになった。
 食えない人だと思った。
 なんというか、宇宙人とか、精霊とか、そういう人間的じゃない存在だと言われても納得をしそうな雰囲気だ。
 不思議だなと思いながら、ただ歩く。
 そうしているうちに家の方に近づいてきた。
 あと少しで着くだろうかと思ったが、そういえばと思い出す。

「アリアルさんは、どこに行こうとしてたんです?」
「うーん、別に、ただ歩いていただけかな」
「……そうですか」
「うん。だから、そろそろ終わるね」

 混乱する私を他所にアリアルさんは続ける。

「じゃあ、楽しかったよ。リッカ」

 そんな言葉を告げた後彼女は指を鳴らした。
 すると、急に眩しくなって目を閉じた。
 目を開けると、そこに霧はなかった。
 そんな超次元的な事にどうしていいのかわからずアリアルさんの方を見た。が、そこには誰もいなかった。
 そこには元から誰もいなかったように消えていた。
 彼女はなんだったのだろうか。
 わからなくて、ただ混乱する。
 犬が走り出したから私もそれに合わせて走る。
 走りながら、また少し、霧が苦手になったかもと、そんなことを考えた。

 

「あ、ねぇさん。何かしてたの?」
「うん。遊んでた」
「へー、楽しかった?」
「そこそこ」
「よかったね」
「うん。よかったよかった」

2021年12月19日公開
2022年12月23日更新