夜の梅

東北ずん子-和菓子が好き。
鳴花ヒメ-精霊が虫歯になることはない、故に甘いものをいくら食べても大丈夫という持論がある。
夜の梅-虎屋の羊羹。うまい。

 もらった羊羹の名前が夜の梅だった。梅味なのかと思ったが、小豆らしい。
 なぜ夜の梅なのだろうと裏を見ると、断面がそう見えるとのことだ。実際に切ってみると、小豆が切れていて白く淡い夜の梅というのをなんとなく理解した。
 味も甘さ控えめで、もったりとしていて、アクセントというには控えめな小豆があった。なんだか、ますます夜の梅だと思った。

「美味しいの? それ」

 不意に後ろから声が聞こえた。振り向けば、子供がいた。ピンクの髪には暗い台所でぼんやりと光っているように見える。
 この子も、まるで夜の梅のようだ。

「……おいしい、です」
「ふーん?」

 夢でも見ているのだろうか。なぜ我が家に知らない人がいるんだろう。でも、なんとなく悪いものには見えない。

「い、ります……か?」

 自分でもなぜそんなことを言ったのかわからないのだがつい、言ってしまった。

「いいの?」
「……どうぞ」

 羊羹を切り分けて、皿に乗っけたものを爪楊枝と一緒に渡す。

「ん、おいしっ。いいね、これ」

 あまりにも幸せそうに食べている姿は、さっきの、ぼやけている時よりもはっきりと見え実態を伴っているような感覚を覚える。
 少し、接しやすさを感じた。

「そうですね」

 無意識に同意をしてしまった。

「そういえば、イタコいる?」
「イタコ……姉様のことですかね? 今は寝ています」
「あ、そう? じゃあ起こしていいかな」
「え……た、多分?」
「ありがとう〜部屋はあっちかな?」
「は、はい」
「じゃあね〜、あ、これありがとう」
「いえ……」

 ペタペタと足音を立てて去る姿を見送る。

「……なんだったんだろ」

 爪楊枝だけ乗った皿を見ながらなんともいけない気持ちになる。不思議な時間だったな。まるで幻を見たようだ。
 それでも、なんだか、悪い気はしなかった。いい夢を見れそうだと、そんなことを考える。

「……後片付けして、寝よう」

 自分に言い聞かせるように呟いた。

2021月10月12日公開
2022年12月02日更新