桜乃そらと鳴花ミコト、正月、手
一時間で書き切るものだったので誤字脱字、誤変換、変なところも残したままです
鳴花ミコト、という少女(あるいは少年)は不思議な存在だった。
去年の正月に出会い、それからの仲なのだが私は鳴花ミコトのことを名前以外は知らない。
どこに住んでるとか、父親と母親の連絡先だとか、どこの学校に通っているのだとか、そういうことは一切知らないのだ。
たまに見かけて、たまに私の家に来て、たまに一緒にでけて、そんな名前もない曖昧な関係だった。
それでも、一緒にいるのは楽しかった。
図書館で本について話すことや、演劇の台本読みを手伝ってもらうこと、一緒にご飯を食べたり。
今とそうだ。
初詣を済ました帰り、見慣れた青い髪を見かけた。
塀の上でつまらなそうに座っている。
「ミコトさん」
危ない、と思った。なんとなく。そうして声をかけると彼女(あるいは彼)はこちらを向く。
少し笑ってこっちへと降りてきた。
「そらだ」
「うん、そらです」
いつもの調子で話す。
「何してるの?」
「なに、っていうか初詣に行ったあとなの」
そう言ってほら、あそこのと近所の神社の方を指差す。
「へー」
「ミコトさんは、もう行った?」
「うん。太宰府に」
「え、福岡の?」
「そう。飛んでった」
なんでもなさそうに話すミコトに少し驚く。
ここから福岡。まず駅まで行って、そこから空港に行って、飛行機で移動して……大体四時間とかだろうか。
あり得ない話でもないのだろうか。
にしたって、まだ朝の十時とかなのに。
不思議に思う私を他所にミコトは歩き出す。つい、それを追うように私も歩き出した。
「にしても、もうちょっとで梅の季節だね」
「そうですねぇ」
近所に、白梅が咲く家があったことを思い出す。主張はしないが、綺麗で好きだ。
思い出してため息が出た。
白くなって何処かへ消えていく。
「にしても寒いね」
「そう?」
「私が寒がりなのかも」
手袋にマフラー、コート。下には三枚、ズボンの下には裏起毛のタイツ。それで、やっとだ。
「じゃあ、近所でお汁粉配ってるところあるからそこいく?」
「え? そんなところあるの?」
この街に住んで十年以上は経っているがそんな場所があるとは知らなかった。
「うん、ちょっと裏に行くけど」
裏道ならもしかしたら知らなくてもしょうがないのかもしれない。
「じゃあ、案内してもらってもいいですか?」
お汁粉はきっと体があったまるだろう。
ウキウキしてる私にミコトは手を差し伸べる。
「なら、手を繋ごうか」
「えっ」
「迷子になったら危ないから」
まさか私が迷子になると思われているのだろうか。そうだとしたら心外だ。
でも、なんだか有無を言わせぬ感じがあり手を繋ぐ。
「じゃあ、いこっか」
そう言って歩き出したが、自分がどこを歩いているのかはよくわからない。なんだか、ふわふわとしている。
しばらくすると人混みが急に現れて、祭囃子まで聞こえてくる。どこなのだろうか、ここは。
わからないけどなんだか楽しげな場所で、まるで蚤の市のようだ。
「ほら、あそこ」
そう言って指差した場所では確かにお汁粉が配れている。
ミコトと一緒に並ぶ。
「ちゃんと此岸だから食べても問題ないよ」
「うん?」
「ほら、順番だよ」
そう言って二人でプラスチックの器、そして箸とともにお汁粉をもらう。
甘くて、美味しくて、あったまる。
餅を箸で掴み上げ食べるともちもちと弾力がすごかった。
「幸せぇ……」
「なら、よかった」
そう言ってミコトもお汁粉を飲む。
そうして二人で笑い合う。
貰った容器と箸をそばにあったゴミ袋に捨てると彼女(あるいは彼)は口を開いた。
「ねぇ、そら」
「どうしたの?」
「あの、今年もよろしくね」
予想もしてなかったことを、告げられた。
「……こちらこそ、よろしくね」
私は鳴花ミコトのことを名前以外は何も知らない。けど、それでも今年のことを語り合える程度には仲が良くなれたのだ。
そう思うと少し、感慨深い。
「また来年も来ようね」
来年のことを話すと鬼が笑うというが笑われてもいいやと思う。
「うん、連れて行ってね」
二人でまたお汁粉を食べに来よう。
嬉しくなって手をまた繋ぐ。
少し恥ずかしそうにしながらミコトは歩き出す。
「じゃあ、他にも見てまわろ」
「はーい」
二人で歩き出した。
2022年01月01日公開
2022年12月23日更新