そういう日

 サンタクロースがいないと知ったのは何歳の頃だっただろうか。

 八歳くらいの頃、十歳も年の離れた兄が何かに気づいていたからだろうか。それとも九歳のころ、もう開き直った母や父が大っぴらにプレゼントを買いに行く相談をしていたからだろうか。
 どっちにしろ小学生を卒業する頃にはサンタクロース宛には何が欲しいということはなくなっていた。
 そうしていないのだと知ったまま大人になり、教師になって、サンタクロースに扮して生徒たちに些細なお菓子を渡すようになっていた。
 ただ、一応サンタクロースとなっている保護者たちのためにサンタクロースはいるという前提で接している。
 なんにせよ今年は休みと重なるのでいつもみたいに大騒ぎする子を送り出す事はない。
 それを少しだけ寂しく思いながらも、月曜からは仕事があるんだからといつもと変わらない、ただの休日のクリスマスイブを過ごしている。
 ご飯を食べるのもやや面倒だ。シャワー浴びたら寝ようか、それともと考えているとベランダの窓がコンコンと叩かれて体が固まる。
 ここは二階だ。
 泥棒という二文字が過ぎる。
 そう思っているとまたコンコンと叩かれる。
 混乱しながら、なぜか大丈夫と思えた。ゆっくりとカーテンを開けると、いた。
 元気そうな子供たちが僕に気づいたのか手を振る。カラカラと音を鳴らしながら窓を開ける。

「こんばんは」
「……あ、こんばんは」

 随分前に、悲しすぎて笑うとか、笑いすぎて泣くみたいな機能が脳にあると聞いたが、多分今がそれなんだと思う。
 混乱しすぎて冷静になっている。
 三つ編みでくすんだ青の髪と、二つ結びのくすんだピンクの髪の子が浮いている。寒そうな格好だ。

「今いいかな」
「あのさ、ここら辺に梅の木なかったっけ」

 そう、自分たちの不自然さを感じさせない自然さで聞くのでこっちも自然に返す。

「随分前に切り倒されましたけど」
「あちゃー、どおりで迷うわけだよ」

 何がどうなのかはわからない。わからないが、現実味がなさすぎてなんだかわからないままでいい気がしてくる。

「どうする? 木霊を探せば案内してくれるだろうけど」
「うーん、ここら辺は大きいのないからなぁ……近所に地蔵があった……よね?」
「あ、はい。近所の十字路に」
「じゃあ聞きに行こうかな」
「そうするかい?」
「そうしよう、教えてくれてありがとう人の子」
「あ、いえ」
「それじゃあありがとう」

 そういって壁を蹴って二人は去っていく。しばらく眺めていたが体が震えてすぐに窓を閉じ、カーテンも閉めた。
 そうして今までのことに対してよくわからない気持ちになる。
 だけど悪い感じではなかった。
 あれはやっぱり人ではなかったのだろうか。それとも人なのだろうか。
 今からどこへ向かうのだろうか。
 何もわからない。けれどもなんだかわくわくする。
 サンタクロースはいなくても人でないものは居るみたいだ。それが知れただけでもなんだか嬉しくなってしまうんだから、やっぱりクリスマスは特別な日らしい。
 しばらくカーテンを眺めていたがキッチンへと行く。
 たまにはいいだろう。そんな言い訳をしながら特別な日に飲む酒と、買っておいた惣菜を取り出した。

2022年12月25日公開
2023年01月08日更新