そこに、確かにいた(別名2021年まとめ)収録
空を飛べたとしても、私は飛ばないだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら空を自在に飛ぶ、飛梅の精霊を眺める。羽ばたいてるとか、滑空してるとか、そういうのじゃなくて、本当に自由に、何の制約もなく飛ぶ姿は美しい。
ぼーっとその姿を見ていると手が伸ばされる。
「ほら、じゅん子。手を取りなよ」
私もあんなに美しく飛べるのかもしれない。
「……でも」
でも、私にはその手を握り返すことはできない。
「やっぱ飛べない?」
「……ごめんなさい」
「いいよいいよ。気にしないで?」
そう言って彼女はすーっと、降りてきて私の隣に立つ。
笑顔が眩かった。
「じゅん子と飛べたら、一緒に星にまで行けると思ったんだけどね」
そんな言葉に星かぁと他人事のような声が漏れる。星って一番近くて何光年かかるんだろうか。そもそも息が持つのだろうか。
たらればに、私の頭は水を差してしまう。それが、ひどく嫌で別のことを考えた。
「……そもそも、手を繋いでたら、誰でも飛ぶことはできるの?」
「んー、桜とはできなかったからなぁ。どうだろう。松みたいに途中で落ちちゃうかも。私たちは、ヒメとミコトっていう二人だったから菅原道真公の所まで飛べたのかも」
彼女が幾度となく繰り返し繰り返し私に話してくれた、桜と松のことを彼女はまた教えてくれる。
「星までは、行けないか」
なんだかそれが嫌で少し突き放した言い方をしてしまった。
そんな私を見て彼女はくすくすと笑う。
「うん。無理かも。でも、そうだね、試してないのに決めつけるのってつまんないよ」
そう言ってまた手が差し伸べられる。
「二人で、飛ぼうよ」
彼女は、先ほどとは違い私よりも下の目線から、そんなふうに声をかけてくる。
なんて声を掛けるべきなのかはわからない。でも、私はその手をつかみ返す。それが返事だ。
「そうこなくっちゃ!」
彼女がそう言ったかと思うと、途端に体が浮く。怖くなって手を離しそうになるのを彼女はぐっと押さえつける。
「抵抗しちゃダメ、怖がると、うまく飛べないよ」
その言葉に、唐突に合点がいく。彼女がなぜあそこまで綺麗に飛べるのか。彼女は飛ぶことは怖くないのだ、言うなれば呼吸と同義なのだ。
当たり前に飛べて、当たり前に飛ぶことが怖くないのだ。
それなら、きっと私は、私たちは飛べるに違いない。
そう思うと、急に体が安定し出す。
「そう、そうだよ! じゅん子!」
彼女が喜ぶにつれて、自分も安心できて、なおのこと体が安定し出す。
「よし、飛ぼう!」
「えっ、あっ!」
もう飛んでると言おうとしたところで体は急に持ち上がる。
さっきまでほんの少ししか浮いていなかったというのに、ぐんぐんと体は上昇する。
呼吸はなぜ苦しくならないのだろう、なぜ耳が痛くならないのだろう。そんな疑問はとうに消えていた。
ただただ風の気持ちよさや、飛ぶことの楽しさ、空の美しさにどうしていいのかわからなくなる。
「すごい! すごいよ、ヒメさん!」
ただただ、興奮がそこにある。
「すごいね!」
そうして私たちは手をもっと強く握る。
「きっともうすぐで星だよ」
彼女はそんな途方もない話をする。
「そうだね」
それでもそれが楽しくて、私もそれに乗る。
星までついたらどうしよう。彼女は何も考えずに宇宙人と会話しそうだ。それは、きっともっと楽しいな。
そう思うと楽しくて楽しくて、もっと飛べるような、そんな気がした。
2022年01月15日発行
2023年01月12日更新