内緒のひそひそ話

そこに、確かにいた(別名2021年まとめ)に収録


 鳴花ミコトにとって性別とはただの飾りでしかなかった。自分はどちらでもあってどちらでもない。だから、本当に飾りでしかない。つけることもできれば外すことだってできる、ただそれだけのものでしかないのだ。
 だが人にとっては違うだろう。生まれ持ってきまったものだし、それによって体の作りは変わっていくし、内面もホルモンだのなんだので変わるし、世間の認識だって違う。
 なるほど、自分は精霊でよかった。
 そんなものにがんじがらめになるなんてめんどくさいったらありゃしない。
 ヒメなら、それならそれでいいかなぁと言うかもしれないが自分にはそうは思えなかった。
 そんなもので縛られたくない。
 そんなもので決められたくない。
 そんなもので考えられたくない。
 自分は自分である。鳴花ミコトは鳴花ミコトである。自分がそう思えるのであればそれだけでいいのだ。
 だから、その見た目で自分の性別というもを特に決めつけられる彼女はどう言う気分なのだろうか。

「え? 別に?」

 彼女はあっけらかんと返事をした。

「別に?」

 思わず聞き返してしまうが、彼女はなんでもなさそうにまたいう。

「うん。別に。生まれ持って持ったものだし。確かにたま〜に気持ち悪い視線とかさ、扱いも受けるけどさ、頭の悪い人のせいでわざわざ傷つきたくないじゃん? 自分の中に偏見があるとわざわざ教えてくれて親切〜って感じ。もうその人とは関わらないし」

 そんなことを言いながらコーヒーを飲む姿は強さを感じさせる。

「……マキって、心が強いね」

 思わずそんな言葉が口から出た。

「そう? ミコトの方が心は強そうだけどなぁ」
「私のはただただ長生きの末に身についた考えでしかないよ。そもそもの話、ただ話を受け流して、心をそこまで動かさないだけ」

 精霊が誰しもそうであるとは言わないが、人に比べて精霊はそうなりがちだろう。

「それが強いんだよ〜私のはただの強がりだし。それに、傷つきたくないけど、実際多少は傷ついてはいるよ。なんていうか、強がることでその傷を軽減してるの」

 彼女はなんでもないように言うが、私にはそう思える内容ではなかった。

「……傷つくのに、強がるの?」
「うん。強がらないともっと傷つくから」

 その言葉になんだか矛盾みたいなものを感じた。

「それは、辛くないの?」
「辛いよ。でもね」

 彼女は立ち上がる。

「私は辛いから強がるのをやめるなんて、その人の悪意に負けたってことじゃん? 私は負けたくないよ、だって私が私として生きてるだけだもん。その人から受けた傷を残さないためにも私は強がるの」

 言い終えてこっちを振り向くけど少し、ポカンとしてしまっていたのが悪かったのかマキは顔を真っ赤にさせる。

「な、な〜んて」
「あ、いや、その理解できなかったとかじゃなくて、ただマキがかっこよくてすごくびっくりした」
「えっ!? あっ、ありがとう……」

 そして、彼女と自分が何も変わらないのだと理解して、勝手なことを考えてた自分が恥ずかしくなった。

「マキのこと勘違いしてたや」
「えっ、なになに急に」
「いや、本当にかっこいいなって」
「うぅ、言われ慣れてないから照れる……」
「そう? ほんとにかっこいいのに」
「誉め殺しだぁー……」

 悲鳴のような情けない声になんだか笑ってしまう。同時に彼女がこれから傷つくないことを願い、その手助けができたらいいのにとただただ一人思った。
2022年01月15日公開
2023年01月13日更新