水奈瀬コウと琴葉茜の映画鑑賞
暗い室内、眩しい画面、イヤホンを2人で分け合って距離が近いものの、ムードもへったくれもない叫び声にうめき声。
微妙な映画は友達と話しながらみるといい、などと兄が話していた気がするが実際そうらしい。
ついさっきもう返却期限の切れた映画を一度も見てないことに気づき、色々迷っているうちに近くに居た琴葉を家に連れ込んで、地べたに座布団を敷いて見てるがぼそっとツッコミが聞こえ、その度になんだか面白くなっている。
「意外と余裕やなぁ」
「な」
画面の中では逃げ惑う女を男が助け、そして2人で手を繋いで走り出す。
「にしても悪趣味やなぁ、ゾンビ映画とか」
「……まぁ、同意する」
小声で応酬をしあっていると悲鳴が聞こえた。
思わず静かになる。
琴葉も思うところあるのかなんとなく手渡した、クッションを形が崩れそうなくらいに抱きしめている。
画面の中ではなんだか偏屈そうなおじさんが出てきて、なんとなくこいつ死ぬんだろうななんて思った。
「拳銃って、アメリカの人みんな使えんのかな」
「火事場の馬鹿力的な感じで動くんじゃないか」
「なんやそれ」
呆れたような声が返ってきて、少し静かになった。
画面の中ではさっきの偏屈そうなおじさんが悪巧みしてそのままゾンビに噛まれる。
因果応報。なのか?
そんなことを思っているとなにも知らない女が噛まれそうになって、それを男が庇った。
「あー」
悲鳴に近い音が聞こえる。
あっちもこっちも大騒ぎだ。
噛まれた男は案の定ゾンビになって女に襲いかかる。そうして、男を女が撃つ。思わず座り込んで泣く彼女の後ろで夜が明け、真っ黒なエンドロールへと移った。
あんまり面白くはなかった。これならわざわざ見なくても良かった気がする。
壮大な音楽の流れる左耳が少し煩わしい。
なんとなく琴葉を見ると三角座りのまま俯いてる。
何か声をかけようか迷っていると不意に喋り出した。
「……コウって、うちがゾンビになってたら躊躇わずに殺しそうやんな」
「俺、そんなサイコ野郎に思われてたとは知らなかったよ」
なってみなきゃわからないけど、多分普通に殺せないだろう。
「……躊躇ったら死ぬのに?」
「まぁ、死にたくなかったらそもそもお前を家に入れないだろ」
「それもそうか」
ふと、壁を叩かれたようでばんばんと大きな音が響いた。
一応叩かれた壁を見るがなんともない。それでも少し心臓がうるさい。
「うるさいなぁ……」
思わず息を潜めた俺とは反対に琴葉はなんでもなさそうに呟く。
少し、慣れてきてしまったらしい。自分も最初ほどはビクビクしていない。
「まぁ、しょうがないだろ」
そう言って膝立ちでベランダへと向かう。遮光カーテンを少しだけあけると明るい外でうろうろと右や左、どこかへと向かう者たちがいた。
時折どっかから悲鳴が聞こえるが大体の人間はやっぱり家の中にいるみたいで良く見れば同じようにベランダから眺める人が見える。
「……逃げんでもよかったんかな」
「どこに」
ホームセンターにでも行けばよかっただろうか。それともスーパー?
「……葵ちゃん無事かな」
「わからん」
ここだけがこんな惨事なのか、それとも世界的にそうなのか。
「……なんでうちコウの家におるんやろな」
「そりゃ、たまたま近所で会ったらたまたまゾンビが沸いたから」
「……」
返事はないが事実だ。
ばったりあって、なんか話してて、ご飯でもいくか? とか言ってたら唐突に悲鳴が聞こえて、わかんないままとりあえず悲鳴がする方にいって、逃げて、部屋に逃げ込んで。
「事実だろ」
「事実やな」
これが映画なら退屈な始まり方だ。
なんで映画を見たのかはよくわからない。流れ込んでくる情報とか、聞こえる悲鳴とか、見たくない現実から一旦逃げないとやってられない気がした。
まぁ全然いい手じゃなかったと思うけど。
「これからどうする?」
現実逃避の時間は終わりだと、監督の名前で止まって長かったエンドロールは終わる。
なんとなく電気は怖くて明けたカーテンをそのままにして少しだけ入った光が部屋を照らして、眩しそうな琴葉が見える。
「……とりあえず、ラジオでも聞こ」
「あったかなぁ」
「あ、物音はダメやで」
「はいはい」
返事をしながら頭の中で考える。
車もなけりゃ、備蓄もないし、力もない。それに、なんとなくだけど希望もない。
どうなるかはわからない世界だ。普通に死ぬ気がする。
「お、ラジオあったあった」
「でかしたで」
だけど友人がいるのでとりあえず足掻けるまで足掻こうと思う。悪運はあるっぽいから。
2023年04月17日公開