想像力とロボット

そこに、確かにいた(別名2021年まとめ)に収録


 A.I.VOICEとして生を受けたのはつい最近のことだ。
 文字通り右も左もわからず、図体だけは一丁前にデカい癖に、中身は未熟な私を教師だからというだけの理由で家に置いてくれているのは水奈瀬コウというVOICEROIDの先輩だった。
 コウさんは一般常識から始まり、税金の支払い方だとか、人の感情についてだとか、円滑なコミュニケーションについてだとかそういう、私がいつか一人で生きるようになっても困らないためのさまざまなことを教えてくれた。
 いくつかは理解できるようになったが、未だに学んでる最中。人と話していくうちに、わからないことが増えていく。
 そんな時、コウさんはいつでも聞いていいよという。

「コウさん」

 だから私はいつものようにコウさんに聞きにいく。

「どうしたの?」
「声が、聞こえないんです」

 そう言った途端コウさんは慌て出す。

「えっ、マイク機能死んだ?」

 私はソフトウェアトークの中では珍しく機械である。そのせいで気を使われがちだ。

「そうではなくて」

 なんと言えばいいのだろうか。わからずにそのままいう。

「本を読んでても、声が聞こえないんです」
「……どういうこと?」

 混乱しているコウさんに今日あったことを簡潔に話そうと努める。

「葵さんがいうには、小説を読んでると声が聞こえると。意識するとはっきり自分のものではない声が聞こえるのだと。でも、私にはそんな力はありません。欠陥、なのでしょうか」

 そう聞くとコウさんは少し考えるそぶりをした後に合点がいったようで軽く笑う。

「あー、いや。それは一部の人しかできないことだよ」
「そうなんですか?」
「うん。頭の中で無意識に想像してるんだよ」

 そう言って彼はほっとため息をついた。

「そもそも、僕も声は聞こえないしね」
「そういうものですか?」
「そういうものです」

 コウさんからそう教えてもらってもどこか納得の行かない私はなんとなく頭の中で声が聞こえるということを想像するがうまくいかない。
 そんな私を知ってかしらずかコウさんは続ける。

「ちなみに僕は、小説を読んでると舞台が思い浮かぶよ」
「舞台、ですか?」
「うん。顔ははっきりわからない、簡単な人の形をしてる3Dモデルみたいなのが動いてるような、そんなの」
「ほう」

 頭の中で想像をしてみる。いまいちうまくいかない。

「あとね、琴葉の赤い方は映画みたいな感じらしい。カメラワークがあって、BGMがなんとなく浮かんで」

 琴葉の赤い方。茜さんのことだろう。想像してみるがやっぱりうまくいかない。

「ゆかりは、FPSなんだってさ。だから一人称以外が苦手らしい」

 ゆかりさん。FPSと言われてようやく少しわかったようなわかんないような、曖昧なのが頭に浮かぶ。

「あかりは、紙芝居とアニメの間っていってたかな。絵が思い浮かんだり、浮かばなかったり、たまに動いたりって」

 あかりさん。絵が浮かぶというとういう時点でつまづく。

「きりたんは、よく聞くと自分の声なんだけど、ぼーっと読んでるといろんな声に聞こえるって言ってた」

 きりたんさん。それは思いつかない。

「あとは、イタコなんかは降霊してるからか、感情輸入しすぎる、というか主人公になるらしい。なんか、爪が剥がれると爪がむずむずしたり、叙述トリックは視点主イコール自分だから、わかっちゃうとか」

 イタコさん。それは、流石に特殊であるとわかるような気がする。

「逆につづみなんかはわからないらしい。そういうのが一切。でも俺の知る限り1番本を読んでる」

 つづみさん。ようやく心にストンと落ちてくる。

「そんなもんだよ。そんなもん」
「そんなもん、ですか」
「ですよ」

 そう言って先生はなんでもなさそうに笑う。

「……ありがとう、ございます。なんとなく、わかりました」
「ならよかった」

 コウさんが私を拾ってくれてよかったと、なんとなく思った。
2022年01月15日公開
2021年02月03日更新